猫日記 
① 犯人は誰だ?!
② 外猫オソノ
③ オソノ婆さんの正体
④ 美猫ムー
⑤ 白い季節に来た白い猫
⑥ ムーよ、お前、何時の間に!
⑦ 二ケトラ物語
⑧ 二ケトラ兄弟
⑨ 病気持ちの兄弟猫
⑩ その後のニケトラ
⑪ 早渕川の猫たち  ~白くないけど 雪ちゃん~(1)
⑫ 早渕川の猫たち  ~白くないけど 雪ちゃん~(2)
⑬ 早渕川の猫たち~「地域猫 ブルー」(1)
⑭ 早渕川の猫たち~「地域猫 ブルー」(2)
⑮ 生きかえったニケ
⑯ 家猫になったムー
⑰ さよならは猫のように


 さよならは猫のように                                                                                                                              
美猫だったムーちゃん
花に囲まれたムーちゃん


私だって女よ
 
私がなにか?
無防備なムーM 私はムーM
お盆も過ぎ、8月も終わり、時たま朝晩の涼しい風にようやく秋の入り口が見えてきた。 今年の夏は暑かった!本当に暑かった!早朝から太陽はぎらつくように輝き、地面から熱気湿気が立ち昇り、日中、外を歩けばまるでサウナの中にいるように汗が噴き出て来る。夜は夜で連日の熱帯夜。暑さで体調を崩し、軽い症状ではあったが生まれて初めての熱中症とやらにもかかり、2013年の夏は、メデイアが伝える記録の上でも、私自身の記憶の上でも類を見ない猛暑酷暑の年だった。この暑さの中、8月10日未明、我が家の猫「ムーちゃん」が息を引き取った。静かに、本当に眠るように静かに命を閉じた。13歳だった。 ムーちゃんが突然脱水症状を起こして食欲をなくし、病院で点滴を受けても一切餌を口にしなくなったのは7月12日のこと。好物の蟹カマをほぐして口の中に入れてやっても、舌で押し出して「要らない」と首を背ける。「もう決めたの。だからもう食べない」とでも言うように・・・・。そしてそれから水だけで29日間生きた。29日も生きてくれた。私に別れの覚悟が出来るまで待っていてくれたように・・・・・。 苦しまず、穏やかにその日を待つように、水を飲みに日に一度立つ以外はじっと同じ姿勢で動かず、最後の一日はその日が来たことを知らせてくれるように「水も要らない」と首を振り、静かに静かに私の腕の中で安らかにこの世を去った。しかも、嫁に行った娘たちが旅行に出る前日で、その日を外したら最後の別れの挨拶が出来ない、と言う日を選んで。 猫を飼うようになってから家の中で四匹見送っているが、どの猫も不思議に「その日しかない!」と言う様な日を選んで旅立っている。人間と違って自分で死期を悟ることが出来るのか、どの猫もその日が近づくと汚物を出さないように餌を口にしないでお腹を空にした。お粗相をしないように水分を摂っている間はトイレの近くから動かない。見事なほどに、どの猫もそうだった。そして全員、寿命を全うして眠るように静かに旅立った。腕の中に抱いて、背中をさすり見送りながら毎回思う。我が家の猫になってくれてありがとう。長い間、一緒にいてくれてありがとう。楽しい、素晴らしい思い出を沢山ありがとう。そして思う。この世を旅立つ時は、こんな風にありたいと。

 家猫になったムー                                                                                                                              
のし猫
窓辺のムーとトラ


丸々太ったムーとニケ
窓辺で光を浴びて、伸し餅のように長―く寝そべって惰眠を貪っているのは、昨年12月から家猫になったムーである。もう10年も前から家の中にいたような顔をしてのんびりとくつろいでいる。 自由な外猫生活を選び、家の中に入るのを13年間拒み続けていたムーが家猫になったのは、昨年12月に肺炎で死にかけたからである。気がついて慌てて病院に連れて行ったら「ここ2,3日が山です」と医者に宣告された。 「ムーちゃん、最後くらい家の中で一緒に過ごそうね」家猫のニケとトラに病気が移らないように三階の屋根裏部屋に隔離して、毎日病院に通い点滴を受けさせた。もう無理と分かっていたが、少しでも・・と望みを繋いだ。一週間経った。餌も水も受け付けなかったムーが少しずつ食べ始め、回復の兆しが見えた。三階の個室にもすっかり馴染んでいた。「入ってみりゃ、家の中はあったかいし悪くはない」と感じたのか、以前のように外に出ようともがいて逃げるそぶりもない。 ならば、この機会に家猫にしてしまおうと、白血病や猫エイズなどの検査を色々受けて 無事、今年の1月7日からニケトラと一緒に暮らしている。あんなに家に入ることを嫌がっていたのに、今では外への出口、玄関の傍にも寄り付かないほど「家猫」になりきっている。 2ヶ月前に余命数日と言われたけれど、この感じではまだまだムーは長生きしそうである。

 生きかえったニケ                                                                                                                              
二匹で一匹 クリスマスの夜のニケトラ
生きかえったニケ


夏前のニケの後姿
ずいぶん長い間、猫日記を書かなかった。いや、書けなかった。と言うのも、我が家の家猫ニケが今年の夏を越せるかどうか・・?そんな状態だったのだ。 昨年10月、老猫ネロが19年の生命を閉じた。老衰で亡くなる前の3ヶ月は背骨がゴツゴツ浮き立ち、腹の皮がくっつくほどに痩せていた。トイレに行く時だけよろよろと立ち上がる。だが、一歩二歩と歩くと立ち止まり座り込んでしまう。そのネロの最後と、まだ6歳と言う若い猫のニケが同じ状態になっていたのだ。 一日中、水も餌もほとんど口にせず、目を閉じて部屋の隅にじっとしているだけ。「ニケ」と声をかけても反応もない。このまま死んでしまうのではないかと思うと心配で遠出も出来ない心境だった。猫日記を書ける精神状態ではなかった。春には4キロあった体重が半分の2キロまで減っていた。艶の消えた毛がパサパサと身体中を覆い、抱きかかえるとまるで生後数ヶ月の赤ちゃん猫のように軽い。腕の中で動く気力もないニケを見ているのが辛かった。2006年秋に我が家に捨てられていた二匹の兄弟猫ニケとトラは、毛皮の柄も性格も頭脳も体格も何一つ似ていない双子の猫だが、ひとつだけ共通点がある。片目が生まれた時から病に冒されている。ニケは右目、トラは左目。ニケの右目は少しは見えているらしいが、トラの左目は、医者に「このまま置いていると腐ってしまうので眼球を抉り取らねばならないかもしれない」と言われたほどの重症だった。毎日医者に通い、日に何度も目薬を差してどうにか手術をしないまでに回復したが、今もって全くトラの片目の視力はない。だが、生まれた時から右目しか見えないトラにとってはそれが普通であるらしく、本人、いや、本猫は全く不自由を感じてはいないらしい。そして、片目の視力がない以外トラはとても健康で、身体も大きくこの6年間、病気一つしていない。一方、トラと違って小柄で女の子のような可愛い容貌を持つニケは、生まれながらにして「癲癇」と言う持病を持っていた。拾って二ヵ月後、ある日突然椅子の上からドタッと転げ落ち、断末魔のような声をあげたかと思うと、バタバタ苦しげに空を手足が掻き毟った。ほんの2,3分くらいの時間だったが、そのもがき苦しむ姿を初めて見た時、なんと長く感じたことか!見ていて心臓が痛くなるほどに驚愕したものだった。 やっと痙攣が治まったニケを獣医の元へ連れて行って診てもらうと「癲癇ですね。猫や犬は治りません。一生ものです。死ぬまで薬を飲み続けるしか治療の方法はありません」と言われた。それ以来、長い時でも一ヶ月、短いときは一週間の間隔でニケは死ぬかと思うような苦しげな痙攣をくり返している。朝に夕に薬を飲み、目薬は日に三回。生まれつきの持病があるから身体も弱く、膀胱炎にもよくなるし、尿道結石にもなる。そしてその度に大嫌いな薬が増える。 「お前、辛いね・・・生きてることが辛いね・・」そんな風に思えて声をかける度に涙が出たりする。それでも痙攣がない時は元気にしていたのが、今年の春を過ぎた頃、薬の副作用かまるでシンナーを吸ったみたいによろつくようになった。どんどん体重が減っていき、餌を口にしなくなり、水も舐めるくらいしか飲まなくなった。それでいて痙攣は毎週一回はやってくる。時々、三日おきに痙攣が始まる時がある。 「痙攣の度に脳細胞が死んでいきます。長い痙攣の時は危険ですからすぐ知らせてください」と医者に言われていた。何時その日が来るのかと恐ろしかった。
ニケが生きかえった!薬をこんなに飲んでも痙攣の間隔が広がらないなら、せめて薬を少なくして楽にしてやろう・・そう思って秋に入ってから医者に内緒で薬の量を半分にしてみた。全部止めるのはちょっと勇気がなかったので半分にしてみたのだが、どうやらそれが効いたらしい。少しずつ少しずつニケに食欲が戻ってきた。少しずつ少しずつ体重が戻ってきた。少しずつ少しずつ元気が出てきた。少しずつ少しずつ動きが速くなった。痙攣が無くなることはないが、それでも、一週間おきが十日おきくらいに間隔が広がってきた。 そしてクリスマスの夜には、元の姿に戻ったニケとトラが、幸福そうに寄り添っていた。
                                              MERRY CHRISTMAS!!

 早渕川の猫たち~「地域猫 ブルー」(2)                                                                                                                              
 
一頃 目を患っていたブルー
いつも美しいブルーが風邪を引いたのか目やにを出していた時があった。気になっていたのだが、この写真の二週間後には元の美しい毅然としたブルーに戻っていた。一緒にいたMさんが「私も気になって医者に連れて行ったら、すぐ治りました」そう言って微笑んだ。 散歩の途中でMさんに会う時は、必ずブルーが傍にいる。彼女はまだ若い主婦で、住んでいるマンションで猫を飼ってはいけないそうだ。「それでも、もし、この子がついて来てくれるなら、なんとしても連れていきたい」と愛おしそうにブルーを見つめた。Mさんは、彼女をデユーイと呼んでいる。アメリカのオハイオ州?だかで図書館に住む地域猫として有名になった“デユーイ”から取って命名したのだそうだ。 ブルーがこの早渕川の仔猫の世話をしているやさしい“地域猫”と言う話も、実はMさんから聞いた話である。「この子はフアンが多くて、連れ帰る人も何人かいたのですが、必ず脱走してここに帰ってくるのです。忠犬ハチ公みたいに、誰かを待っているのか、それとも、ただ単にここが好きで自由に暮らしたいだけなのかは本当の理由は分からないのですが」とMさんは言っていた。猫が口をきけたら、どんな素敵な物語を語ってくれるのだろう?それとも、どんな悲しい物語なのだろうか?

 早渕川の猫たち~「地域猫 ブルー」(1)                                                                                                                              
 
地域猫ブルー
いいお天気なので久し振りに散歩に出た。いつもの通り近所の早渕川の土手に沿って一時間ほど歩く。この早渕川沿いには色んな猫が棲息している。勿論、野良猫である。顔なじみの子もいれば、すぐいなくなる子もいる。誰か猫好きな人に拾われたのだろうか・・? 我が家にはニケトラ兄弟にオソノとムーの夫婦、四匹がいる。もう自分が飼えない猫には 関わらないようにしているが、やはり見る度に気になってしまう。  散歩中、いつもの場所で会わないとどうしているかなあ?とあちこち探してしまうのが 地域猫“ブルー”だ。写真で見ての通り美しい猫で、最初は野良猫ではなく「迷い猫」だと思った。うっかり家から出てしまって帰る場所が分からなくなった家猫だと思ったのだ。

⑫ 「早渕川の猫たち」  ~白くないけど 雪ちゃん~(2)                                            
 
どうして雪ちゃん?
「この子、保健所で処理される二日前に、可哀想でウチで引き取ってね。雪ちゃんて言うんだ」まるで関係ない猫の話をするようにポソポソと話してくれたその人は雪ちゃんの飼い主だった。<よかった!この子は飼い猫なんだ!>私はホッとした。 「あれから16年、この子も今じゃ20歳くらいの婆さん猫だよ。私よりトシ取っちまった」そんな話を雪ちゃんは何処吹く風と知らん顔で聞いている。 「引き取ったときゃ毛をすいてもらっていないから、毛がよじれて編みこみになっていて痛がって大変でね、医者に連れて行って注射をしてもらって、毛を綺麗にしてもらったら、猫は保険が効かないから、一年分のお小遣いが一ヶ月で飛んじまった・・・」 雪ちゃんのお母さんのお話は続く。「ほんとこの子は我儘で気難しくて、櫛でとかされるのが嫌いで、蚤ダニの薬をやられるのが嫌いで、同じ缶詰を食べるのが嫌いで・・・ 何十種類も缶詰やったのに、ちっとも懐かなくてねえ・・息子は大好きでゴロゴロ喉を鳴らすのに、私にはちーっとも!」可愛くないと言いながら、雪ちゃんを見る目は慈愛に満ちていた。 「雪ちゃん、おいで」と声をかけると、そろりそろりと私の方に寄ってきた。 「おや、珍しいねえ。人を信用していないから、人の傍には滅多に寄らないんだけどねえ」 雪ちゃんのお母さんが初めてにっこりと笑った。それからひとしきり雪ちゃんの話を聞いて立ち去った後、ふと聞き忘れたことをひとつ気がついた。なんで白くないのに雪ちゃんなんだろう?振り返ったら、もう雪ちゃんもお母さんも姿はなかった。
もしかしたら、雪ちゃんは雪の日に引き取られた猫なのかも・・?


⑪ 「早渕川の猫たち」  ~白くないけど 雪ちゃん~(1)
 
去年の雪ちゃん
去年の夏、早渕川の散歩の途中で会ったブルーペルシャの”雪ちゃん“に、久し振りに会った。あれ以来会わなかったから気になっていたのだが、痩せてもいないし、毛並みも綺麗だから安心した。相変わらず首輪もしていないで、土手沿いの道をふらりふらりと歩いていた。「雪ちゃん、元気?」と声をかけたら、足をとめて頷いた、ように見えた。去年より少し老けたかな?  最初見た時、捨てられたばかりの猫かと思った。歩き方が目的もなく、帰る家もなく途方にくれているようだったからだ。野良で逞しく生きてきた猫にはとても見えなかった。飼い猫で育った子が捨てられると生き方を知らないから惨めだ。特に、こういう長毛種の猫は、ちょっとでも手入れが行き届かないとすぐ毛が絡んで肉が引きつってしまう。私が最初に飼ったチンチラシルバーの五右衛門がそうだったから、なんだか立ち去り難かった。 「その子、お婆さんに飼われていて、お婆さんが死んだので何人かたらいまわしにされてねえ・・」 植木の手入れをしながら私の様子を眺めていたご近所の年輩の奥さんが声をかけてきた。「若い頃はもっと毛がふさふさして、クマさんみたいだったよ」その人は作業の手を止めて雪ちゃんに視線を注いだ。  


⑩ 「その後のニケトラ」
 
いつも一緒のニケトラ
ニケトラが我が家の家猫になってから5年半が過ぎた。眼球を抉り取らなければならないかもしれないと心配されたトラは、私と娘の看病の甲斐あってか手術もせずに左目は見えるようになった。右目は全く見えないが、最初から片目しか見えなかったせいか本人は、いや、本猫は少しも気にしていないようだ。いたっておおらかに健康に育っている。トラは気のいい猫だがちょっとお馬鹿さんだ。“トラ”と言う名前が自分だと覚えるのに二年以上もかかった。「ニケー!」と呼んでも「トラー!」と呼んでも「ニャー!」と甘えて飛んでくる。どちらが自分の名前なのか判断がつかないのだ。  一方、ニケは最初から頭がよかった。「ニケ」と言う自分の名前しか振り向かない。振り向くが、トラのように「ニャー!」とは飛んで来ない。立ち止まり、「何?何の用?」と言う風にちょっとだけ反応して、サッサと離れてしまう。可愛くないがそこが可愛い。矛盾するが猫馬鹿とはそう言うものだ。ニケは残念ながら癲癇の持病を持っている。我が家に来て三ヶ月目に物凄い泡を吹いて痙攣した姿を見て私は仰天した。死ぬかと思うような苦しみ方なのだ。2分ほどもがいて苦しみ、しばらく死んだようにぐったりしている。その後はケロリとして猛然と餌を食べ始める。訳が分からないまま医者に連れて行くと「癲癇です」と言われた。猫や犬の癲癇は人間と違って大人になっても治らないのだそうだ。「一生付き合って行かなければなりません」と悲しいことを告げられた。それ以来、ニケは朝晩薬を飲み続けているが、十日に一回のペースで相変わらず<このままで死んじゃうの?!>と思うような痙攣を起こす。痙攣を起こす度、脳細胞が少しずつ破壊されていくと聞いて、こんな苦しい思いをして生きなければならないなんて!と可哀想で涙が出る。  あれから5年、相変わらずニケの痙攣は治らないが、それでもそれ以外は元気に過ごしている。何よりも、上の写真のように、ニケトラはいつも兄弟と言うよりは恋人同士のようにいつもぴたりと寄り添って暮らしている。この幸福が何処まで続くか分からないが、 先のことは考えないようにしている。少なくとも、我が家に拾われていなかったら5年前に確実に死んでいたのだから。  

⑨ 「病気持ちの兄弟猫」
 
一ヵ月後のトラ
 
一ヵ月後のニケ
結局、二匹の猫はニケトラと名付けて我が家で飼うことに決めた。ニケトラが我が家に来た二年前、初代猫、チンチラシルバーの五右衛門が16歳の命を閉じた。五右衛門との別離が悲しくて悲しくて立ち直るのにかなりの時間がかかった。あんなに泣いたのは生まれてこのかた初めてだった。だから、もう新しい猫は飼わないと決めていた。だが、いかにも病気もちのようなこんな兄弟猫を二匹揃って誰かが引き取ってくれるとは思えない。こんな小さい仔猫を見捨てる訳にはいかない。弟らしき目の見えない茶トラ猫を背後に庇ってフーフー人間に逆毛を立てている二毛猫の姿がいじらしく、この 二匹を一緒に飼ってやろうと覚悟を決めた。  決めたなら最初にやることは獣医に連れて行くことだ。日は暮れかけていたがまだ間に合う。すぐに私は二匹を籠に入れて近所の病院に向かった。 「この子たちは他の家猫と一緒にしないでください。色んな菌を持っています」 医者はウジャウジャ病原菌らしきものがうごめいているスクリーンを見せてそう言った。 「こっちの茶トラは、もしかしたらこのままずっと見えないままかもしれません。片目は確実に駄目です。いずれ眼球を取り出す手術が必要になるかもしれません」 そう聞いても今更引き返せない。 「お前たち、頑張って一緒に治そうね」私は二匹に声をかけた。  

⑧ 「二ケトラ兄弟」                                                                      
 
こんなに可愛い目!

新顔トラ
我が家の玄関前の猫小屋に捨てられていたのは一匹だけではなかった。最初に見た猫は白地に茶の二毛猫。缶詰の餌を小さな皿に乗せて離れて見ていると、小屋の陰から少しずつにじり寄り姿を現した。キョロキョロ辺りを見回し、私の姿を見ると一人前にフーッ!と逆毛を立てて威嚇した。女の子のようにつぶらで丸く可愛い瞳をしている。その優しげな風貌で私を脅す姿がおかしかった。 「大丈夫だよ。お食べ」そう言ってもう少し遠くに離れてやると、安心したのか皿に口をつけた。二、三口食べたかと思うと、「食べるなよ」とでも言うように私を一睨みして庭のほうにサーッと走り去った。あら、どうしたの?と思う間もなく二毛猫は戻ってきた。その後ろにもう一匹、更に痩せて小さな茶トラの仔猫がいた。両目が目やにでただれ目が見えないようだった。二毛猫の匂いをかいでついて来ているのか動きが遅く鈍い。  二毛猫もよく見ると右目がおかしい。明らかに右目の色が異常だった。 二毛猫は茶トラを餌の皿まで誘導し、さあ、お食べと言うように鼻先でお尻を押しやり、また私の方を見て「食うなよ!」と言うようにフーッと威嚇した。 「ねえ、あんたたち兄弟?、二匹で捨てられたのォ?」どうしよう・・?困ったねえ・・。私は途方にくれた。  
                                     

⑦ 「二ケトラ物語」
 

この二匹の子猫が我が家に捨てられていたのは、忘れもしない2006年9月12日の 夕方5時頃だった。何故そんなに正確に覚えているかと言うと、翌日、生命を賭けた大きな手術のために主人が入院することになっていたからだ。 外出先から帰宅した私の目に、玄関前の猫小屋の付近でサッと身を隠した小さな影が飛び込んだ。初秋の太陽はまだ高く明るく、小さな影の一瞬の素早い動きも見逃さず姿形を照らし出していた。 「仔猫だ!」と、すぐに分かった。それも生後一ヶ月経ったかどうかの痩せた仔猫。 白地に茶色の二毛猫だ。ある程度育った猫なら我が家の外猫の餌を知って門の中の猫小屋まで侵入してくるのもあり得るが、こんな小さな仔猫が突然何処からかやってくることは考えられない。誰かが私の猫好きを知って捨てに来たのだと思った。 「どうしよう・・?」しばし私は立ちすくんでいた。  


⑥ 「ムーよ、お前、何時の間に!」                                                              

私だって女よ
誰にでも好かれ、誰にでも可愛く甘えるムーが、いつの間にか女になった。 「ねえ、ムーちゃん、ちょっと太った?」「いや、お腹が大きくなったんじゃ・・・?」 子猫だとばかり思っていたムーが妊娠していた。 「ねえ、相手誰?オソノはオカマだし、バンバン、ボンボンも去勢してあるし・・・」 娘たちと思わず顔を見合わせた。「まさかー?!!」 もしや、もしや、あの“飯時だけ”風のようにやってくる片目のジャックでは?!! 犬のように画体がよくて猪首のジャックは、片目がつぶれた迫力のある野良猫で、人間で言えばやくざの大ボスだ。去勢しようとしても捕まらないし、私も恐ろしくて触れない。 「あいつに似た不細工なのが何匹もゾロゾロ出てきたら、どうしよう?!」 だが、そのまさかは恐ろしい現実だった。ムーとジャックが仲良く寄り添っていたのだ。 私はゾッとした。「一刻も早く避妊しなくっちゃ!!」 ムーは、猫には誰にでも可愛く懐くのに、人間に関してはかなり警戒心が強い。家に入れて飼おうと思っても近寄るとサーッと逃げてしまうのだ。 大きな檻を借りて餌を仕込み、三日かけてやっと掴まえ医者に連れて行った。 「三体、入ってました」と医者が言った。「もう少しで産んでましたね」 ウへー、危ないところだった・・・・!! 母親になり損なったムーは、何故か避妊の後から人間にも懐くようになった。だが、家に入ると又手術されると思うのか、家にだけはどんなに誘っても絶対入ろうとしない。ムーは、外猫としての道を選んだのだ。 あれからもう10年。ジャックは姿を見せなくなったから死んだ・・?らしい。 ムーは今、元夫・ジャックの替わりに、オソノ爺さんの連れ合いになって猫小屋で平和に暮らしている。ムーももう11歳。歳のせいか、ジャックと恋?をしていた頃の美貌はすっかり陰をひそめ、しっかりと中年オバサンの顔になった。夫婦は似てくると言うが、元旦の朝、オソノと並んで日向ぼっこをしているムーは、オソノのレプリカである。  
                                                      
 

⑤ 「白い季節に来た白い猫」           

         私が何か?                                     
ムーは、2000年の白い季節にやってきた白い子猫だった。 確かクリスマスの頃だったと思う。雪が降っていた・・と言う記憶がある。 うっすらと白く染まった家の前の坂道を、軽やかに飛び跳ねていた子猫がいた。それがムーとの最初の出逢いだった。 綺麗な白い猫だから、野良猫とは思わなかった。何処かの家で飼われている子猫が遊びに来ているのだろう、と思っていた。 ムーが来ると、餌を前に醜く順番を争い、一触即発の険悪ムードで向かいあっている猫たちが、なんだかスッと戦意を引っ込める。そして、「おう、小さいの、お前が先に食べナ」みたいなイイ格好をして譲り合う。微笑ましくも信じられない光景だった。 我が家の外猫と言っても、バンバン&ボンボン親子以外は互いに血の繫がりのない野良猫同士だ。弱い猫をいたわり譲り合うなんていう仁義も道徳も一切ない。それが何故かムーだけには紳士淑女になってしまう。ムーだけには、みんな嫌われたくないのだ。 「ムーみたいになってみたいものだね」 我が家の女どもの本音である。


④ 「美猫ムー」                                                                           

       ムーです                                     
人間でも、そう美人と言うわけじゃないのに、なんだかとっても綺麗に見える女性がいる。その人の醸し出す雰囲気や人柄のよさ、表情の柔らかさなどが「綺麗!」と思わせてしまうのだ。 我が家の外猫ムーも、そのタイプだ。よく見ると目は斜視だし吊り目(まあ、猫だから仕方ないか・・)だし、鼻の傍にそばかすみたいなシミも結構ある。でも、パッと見は綺麗に見えるのだ。 ムーの武器は何と言っても全身真白な毛で覆われたしなやかな体と金色の瞳だ。「美人の条件」いや、「美猫の条件」を完璧に備えている。 かてて加えてムーは穏やかでやさしい性格を持っている。どの猫にも風に揺れる葦のように逆らわず、どの猫にもそっと寄り添って甘え、それでいて世渡り上手と言った計算が少しも感じられないのだ。つまり、芯から“お猫柄”が好いのだ。だから、どの猫もムーのことは好きだった。気性の荒い野良ボスのジャックも、性格の悪い外猫オソノ婆さんも(実はオス猫だったが)、たまに立ち寄る拗ね者の“もどき”も、 白黒まだらのバンバン&ボンボン親子も、我が家の餌場にたむろし、互いに外猫の立場で小競り合いをしていたどの猫もムーだけにはやさしかった。ムーは ずっとみんなのマドンナだった。


③ 「オソノ婆さんの正体」                                                  
 婆さん猫とばかり思っていたオソノは、実はソノオ君だった。 確かにメス猫にしては身体がデカイし目付きも悪いし、その上気が強く可愛げもなかったけれど、男の子の大事なものがついていなかったので、てっきりメス猫だと思ったのだ。 そう言えば、オソノは全くもってモテナイ。気の毒なくらいモテナイ。どのオス猫も オソノには一切関心を持たず近づこうともしない。いくら婆さんでも、ああはなりたくないものだ・・と我が家の女ども(まあ、私と娘二人だが・・)は思ったものだ。モテナイと言っても、盛りの時期になるとオス猫は見境がなくなる。  
オソノが我が家の外猫として居ついてからニ週間後、心配になって避妊手術をするために医者に連れて行った。ついでに蚤やダニ、病気も調べてもらった。 「オソノさん、そんなに年寄りじゃありませんよ。結構若いし健康です」 にっこり笑って医者は言った。そして重ねたもう一言に私は仰天した。 「オソノさん・・・男の子です」「え?エエーッ?!!」 オソノは、「ソノコ」さんではなく「ソノオ君」だったのだ。元の飼い主に去勢されていたので“ナニ”が見えず、勝手に私たちがメス猫と勘違いしていたのだった。どうりでオスにはモテナイ筈である。今 オソノは新しい外猫ムーちゃんのご亭主になっている。
    
② 「外猫オソノ」                                                  
 11年前の冬、何処からか流れてきた婆さん猫がいた。雌猫にしては大柄なでっぷりとした体で、般若のように目つきの悪い猫だった。そのくせやたら人懐こくてゴリゴリ体をすり寄せ甘えて来る。元は飼い猫だったようだ。擦り切れそうに古く汚れているのに、まだ頑丈さを保っている小さな首輪が、残酷にも深く首に食い込んでいた。小さい頃に捨てられたまま、迷子になって流れてきたのだろう。首輪を外して餌を与えたので そのまま我が家に居つくことになった。家の中に入りたがったが、当時、我が家には老衰で体が弱っていた「五右衛門」と言うチンチラシルバーの猫がいた。エメラルドのような美しい瞳を持った白いふわふわの毛玉のように愛らしい子猫の時に出逢い、猫嫌いだった私の心を一瞬にして奪い、それ以来16年、家族以上の大切な存在になっていた。 野良猫はどんな病気を持っているか分からない。五右衛門の命を縮めるかも知れないオソノを家に引き入れて一緒に飼うことは出来なかった。家の中には入れなかったが、流れ者の婆さん猫は外猫として飼うことにした。温かい毛布を一杯敷き詰めた玄関横の猫小屋で、流れ者の猫は我が家の外猫となった。尻尾は黒く、背中と左耳に黒い毛はあるが全体に色白なので、「オソノ」と呼ぶことにした。色白で有名なカリスマ美容研究家「そのこさん」にあやかった名前である。
 
ガラス越しのオソノ 

 
玄関前の猫小屋
 
 「犯人は誰だ・・?!」  
                                             
 最近 何処かの犬が大きなウンチを我が家の前の道路に落として行く。塀に沿って植えてあるラヴェンダーのプランターの前に、これ見よがしの大きい奴をモリモリ。最悪――!!「何処の犬だー?!飼い主は誰だ?!」犬のウンチの始末もしない飼い主の顔を見て一言文句を言ってやろうと、毎朝花に水をやる時間をずらしながら見張っているのだが、なかなか網に引っかからない。7時、6時半、6時、5時半と時間を早めてみて・・・「シマッタ!寝過ごした!」朝の7時半に飛び起きると、もう既にいつもの定位置は綺麗に洗い流されていた。「片付けといたからねー!」お向かいの家の奥さん、Sさんからお声がかかった。早起きで世話好きのさんは、自分の家の前だけでなくご近所の家の前の道路も綺麗に掃き清めてくれるのだ。「いつもすみません。それにしても毎日毎日、いったい何処の犬なんだか・・?!」Sさんが目を丸くした。「あら、知らなかったの?これ、犬のウンチじゃないよ」「え?・・・じゃあ、誰が?まさか・・まさか?!」「そう、犯人はお宅の・・!」Sさんの笑いをこらえた視線の先に、悠然と車庫前からこちらを見ている我が家の外 猫「オソノ」の姿があった。